じょうぶな歯をつくる基本食 英保 裕和
2月に私の尊敬する栄養士、幕内秀夫氏の講演が三田で開催されました。
タイトルは『じょうぶな子供をつくる基本食』。今回もわかりやすく、ためになるお話でした。
幕内氏は『じょうぶな子供をつくる基本食』として、パンの常食はやめてごはん(米飯)をきちんと食べること、
こどもの飲み物は水・麦茶・ほうじ茶とし、液体でカロリーをとらないことを強調されています。
これは『じょうぶな歯をつくる基本食』そのものでもあります。
歯をじょうぶにするためには歯みがき・フッ素・キシリトールなどの方法もありますが、まず前述のふたつを実践して、子供たちの体も歯も心も健康に育てたいものです。
よくかんで食べよう! 江見 丈
最近、やわらかい食べ物を好む傾向があります。
しかしよくかんで食べることも、健康で丈夫な歯をつくるうえで欠かせないポイントになります。
よくかむと、だ液がたくさん出ます。
消化吸収をよくする働きのほか、だ液にはカルシウムやリンが飽和状態で含まれているので、歯のエナメル質から溶け出したカルシウムやリンを補います(再石灰化)。
また成長期には、かみごたえのある固い食べ物(小魚、リンゴ、野菜スティック、ナッツ、スルメ、昆布など)をよくかむことが歯の植立状態をよくし、
美しい歯並びを形づくるのに役立ちます。加工されたやわらかい物だけでなく、自然の食べ物をよくかんで食べましょう。
唾液の働き 田中 道生
唾液には口腔内の乾燥を防ぎ、運動や発音を潤滑にし、食物の嚥下を助けるという動きだけでなく、
残った食物を洗い流す洗浄作用、糖分の摂取により虫歯になりやすい酸性になった口腔内を中性に戻す緩衝作用、
唾液アミラーゼによる糖質消化作用、歯の保護や歯を強くする作用、抗菌作用など様々な働きがあります。
これらは歯と全身の健康のために重要な働きです。唾液の分泌量はよく噛むことによって多くなります。
どんな食物でもすぐに飲み込まずに、よく噛んで食べるように心がけましょう。
現代の若者は苦味がきらい? 渡辺 匡紀
キリンから新銘柄のビールが若者をターゲットに発売され、苦手意識のある苦味が抑えられているとのことです。
さて、すり鉢でゴマをするのに右回りと左回りでは全く違う性質のゴマになるということをご存じでしょうか?
すり鉢の溝には向きがあり、それによりすりつぶされ方が変わり性質も変化します。歯の表面にたくさんの様々な向きの溝が存在するのは、
食べ物をすりつぶし旨味を絞り出すためなのです。
現代の若者は姿勢が悪いために奥歯でものを噛まなくなったが故、歯の咬合という機能がうまく働かず、食べ物本来の旨味を感じにくくなっているのではないでしょうか。
よく噛んで、ガン予防 吉原 正明
しっかり噛むことが脳を刺激したり肥満を防止したり、健康な身体をつくることはよく言われます。
今回は、よく噛むことがガン予防になるお話をしましょう。
唾液の中にはペルオキシダーゼというタンパク質が含まれています。
これには発ガン物質の発ガン作用を抑える働きがあるのです。噛めば噛むほど唾液の分泌はよくなりますから、しっかり噛んで食事をすることでガン予防にもなるのです。
また活性酸素を抑制する働きもありますので、老化現象を防ぐ効果も期待できます。
ですから食事ごとに、ぜひ健康や予防や若さをいっしょに噛みしめてください。
そう、ひと口につき30回程度、ゆっくりと・・・。
車椅子生活と咬合 吉田 和美
先天性、後天性を含め、何らかの原因で体の自由が利かなくなった患者さんを目にし
、私が診療上感じることは、たとえば、脳梗塞などで感じないはずの歯肉が痛かったり、常に違和感を感じたりして、
義歯装着をあきらめてしまったり、治療そのものをあきらめ、痛いままに辛抱し楽しいはずの食事が苦痛になっている人が意外にも多いことです。
歯は噛むことだけではなく、頭蓋骨を支え、四肢を動かす上でも大切な役割を担っており、
また咀嚼により脳の活性化にもつながり、延いては体そのもののリハビリであるとも私は考えております。
どうぞあきらめることなく、咬合のリハビリにも意欲を出し、栄養の整った楽しい食生活を向上させて、
ひとつでも多く日常の基本が取り戻せたら、わたしたち歯科医の励みでもあります。
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